大阪府20世紀美術コレクション展(2021年3月30日〜5月1日)招聘作家
野原万里絵インタビュー

大阪府立江之子島文化芸術創造センターでは、「大阪府20世紀美術コレクション」活用事業の一環として2018年度より年1回気鋭の関西拠点アーティスト1組を招聘し、新しいカタチのコレクション展を開催しています。

2021年3月16日(火)から4月11日(日)の約4週間に渡って開催する次回のコレクション展は、大阪府出身のアーティスト、野原万里絵さんと共につくります。(会期が2021年3月30日(火)から5月1日(土)に変更となりました。)

 

展覧会情報はこちらからご確認ください。 http://www.enokojima-art.jp/higanoekagami/

 

このページでは、ニュースレター23号の10ページに掲載した野原万里絵さんへのインタビューを、ノーカットで掲載します。展覧会にお越しになる前にぜひお読みください。

 

野原万里絵

野原万里絵(のはら・まりえ)プロフィール

1987年 大阪府生まれ
2011年 京都市立芸術大学 美術学部美術科 油画専攻 卒業
2012年 Royal College of Art (London) 交換留学
2013年 京都市立芸術大学大学院 美術研究科絵画専攻 油画 修了

絵画を描く際の感覚的かつ曖昧な制作過程に関心を持ち、自ら制作した定規や型紙などの道具を用いた絵画作品を制作・発表している。また、自身が道具で絵を描く行為に加えて、ワークショップを日本各地で開催し、協働制作による作品も発表。他者とのコミュニケーションを通して、絵画の新たな可能性を模索している。

 

ポートレイト撮影:増田好郎

 


 

──野原さんは国内外でのアーティスト・イン・レジデンス(*)に多く参加されていますが、現地に到着して「まずは一番にこれをする!」という行動は?

 

野原万里絵(以下、野原):スーパーマーケットや市場には必ず行きます。地元の食べ物や日用品を一通り見て、地元ならではの食材や調味料を買って料理したり。滞在先の食べ物とともに、制作の思い出が残っていますね。生活するということのなかで食は一番大事なこと。スーパーである程度買いだめして、まずは生活環境を整える。そうすることで、気持ちよく制作に取り組めます。

 

──食や生活環境は、制作のモチベーションに影響を与えますよね。

 

野原:はい。ご飯やお酒が美味しいということも、私が北国へ滞在することが多い理由の一つです。あと、スーパーに行くと人の所作も違っていて、「遠くに来たなあ」と実感します。新潟も青森も、レジは大阪と比べてゆっくり。私はせっかちなのですが、北に行くと自分の制作もちょっと穏やかに、落ち着いて取り組めるようになる。生活だけではなく、制作に対しての変化もありますね。

 

──アーティストの中には一人で作り込むタイプの人も多いですが、野原さんは他者を巻き込んで協働制作されることが多いように感じます。

 

野原:小さいスペースでの展示など、他者を巻き込む必要がない場合にはあまり協働制作はしません。大きな作品をつくるとき、一人の力だけで良いものにしていくことのできる作家もいると思いますが、私にとってはそのタイプの方法が難しい。自分の手で描いたものだけが積み上がっていくより、”ちょっと風が吹いて崩れた”とか、”雨が降って雨垂れができた”とか、自分が予期していない絵の表現やアイディアがあると、一人でこもって描いているよりも見え方が広がるときがあります。「この絵にはこんなところがあったのか」と、新たな発見があります。展示する場所にあわせて、一人でつくるか、他者を巻き込むか、考えて決めています。

 

──その際、コミュニケーションが必要だと思います。普段アートと接することのない方や、子ども達も協働制作に参加されます。協働制作において、野原さんが意図しない表現が出てくることはありますか?また、そういったときは、どのように作品としてまとめていきますか?

 

野原:自分が思っていたことと違う表現が出てくることの方が多いです。以前は、「楽しんでくれたらいいや」と思うようにしたり、「違う」と思ってもそれを伝えることが申し訳ないと感じていた時期があったんです。しかし、それをそのままにしておくと、後になって自分に後悔として残ることに気づきました。

最近は協働制作をどう進めるかということに慣れてきて、コミュニケーションの仕方を工夫することで、解決するようにしています。「私はちょっと違うと思うんですが、どう思いますか?」と聞いてみる。そうすると、楽しそうに描いていても、実は意外と「自分も違うと思っていた」とおっしゃる場合が多いです。なぜ、私が少し違うと思っているのか。理由をはっきりその場で伝えると、私の作品を一緒につくりに来てくださっているので理解して共感してくれます。言葉でコミュニケーションを取りづらい場合には、私が絵の具を使って「こう言う感じです」と見せていく。協働制作はその繰り返しですね。

 

──3月のenocoでの展覧会では、野原さんご自身の作品に加えて、大阪府20世紀美術コレクションの中から展示作品を選んでいただきます。すでに作品は決まっているとのことですが、どういった基準で選ばれましたか?また、展覧会のテーマは?

 

野原:展覧会テーマはまだ明確ではないですが、画家マティスが自身の視点を書いている『マティス 画家のノート』(アンリ・マティス著/二見史郎訳, みすず書房)のイメージです。私は絵描きとして「些細だけれどここを見ているんだ」といった視点、コアな部分をノートにまとめる。私の小さなノートが展覧会場に広がる。そんなイメージです。日常的に考えることや小さなきっかけが絵として出来上がっていく、ということは、どの作家にもあるはずです。展示作品のセレクトにおいては、小さな視点で心踊る、魅力的な作品を選びました。その一つが、伊藤継郎さんの《スケッチ・ブック》です。大きな美術館ではないからこそ、制作への小さな愛情や習慣に注目し、それぞれの作家のこだわりを読み解いていけたらと思っています。

 

──「美術作品」や「展覧会」と聞くと、アートに親しみのない人にとっては、気軽に行っていいものかどうかわからないですし、一般的には作家が身近な存在ではなかったりします。作家と呼ばれる人たちが普段何を考えているのか見えると、親近感が湧きそうですね。

 

野原:私は、人の習慣を観察することも好きなんです。作家の日常を観察すると「だからこの人こういう作品なんだ!」と合点がいくことがあります。一方で、私も、よくアーティスト・イン・レジデンスに参加するからこういった作品をつくっている、という特徴もあるはずです。これらの関係は、作品を見るだけではわからないかなと思っています。

 

──ということは、3月のenocoでの展覧会では、作家の生活感みたいなものも見えてきそうで楽しみですね。

 

野原:実は作家は日常の延長で作品を作っているんだ、ということが見えたらいいなと思っています。遠い存在ではない。日常の積み重ねが、絵を作っているということが見える展示にしたいです。

 

*取材日:2020年11月19日

 


*アーティスト・イン・レジデンス・・・招聘されたアーティストが、ある土地に滞在し、作品の制作やリサーチ活動を行なうこと、またそれらの活動を支援する制度を指す。(webサイト アートスケープ内の「アートワード」より引用)