写真製版を用いて
前田藤四郎は版画のこうあるべき技術といったことにはこだわらず、あくまで画面上での面白いこと、新しいことを追求しました。その実験の一つとして、前田氏が多用したリノカットに写真製版を重ねるというものがあります。
時計
<時計>1932年、リノカット、銅版凸版、紙、26.5×34.0cm
道化者
<道化者>1934年、リノカット、銅版凸版、紙、43.0×30.5cm
前田: | この時計の裏がね、二回目の講座のとノ持って来ますけれども『時計』という題でもっと大きな作品を作ったのですよ。 それが、私の出世作にもなっているんです。 また、東京の近代美術館や東京都の美術館、大阪府の現代美術センターに収蔵されているんですが、 非常に評判がよかったんですよ。その評判については、私としては写真製版を使ったというので珍しかったのではないかと思うのです。
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高橋: | 早いですね、写真製版を当時使ったということは。
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前田: | この時計はね、銅版画でとったんですよ。まだ、銅版が残っていますよ。その当時みたいにしなくても、今では、シルクでできるんですが、 その時分はシルクもなかったし、エッチングもなかったんですよ。その当時に、写真製版で『時計』を作ったというのは、なにか新しいものをしたいな、変わったことをやりたいなという現れでしょう。そのように思ってください。 |
※コーディネーター高橋亨氏(当時、大阪芸術大学教授)と前田藤四郎氏との対話口座『なにわ塾叢書7 版画家として』(1982年、大阪府)より抜粋しました。