肌感 hadakan 第4回:12月15日(土)
第4回 村上美香さんと巡る大阪ミナミ

ツアーレポート

12月15日(土)に催された村上美香さんのツアーの様子をご紹介します。
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村上さんのオフィスを訪問

謎めいた看板やネオンサインにドキドキしながら、集合場所の日本橋駅から歩くこと3分。艶街の谷間に佇む3階建ビルにある、村上さんのオフィス「一八八」を訪ねるところから今回のツアーはスタートです。オフィスのある2階に上がると、笑顔の村上さんと柴犬の“まめ”と“みつ”が大歓迎してくれました。

立地もさることながら、オフィスの造りもかなりユニークです。

壁に沿って取り付けた大きな一枚板をデスクに、スタッフ各自のスペースは塗り壁でほどよく仕切られ、足元はなんと掘りごたつ風! 「劇団・維新派の建て込みチームの方たちが古材を集め、6坪×2部屋のスナックを改造して作ってくれました」と村上さん。車座になって話をする私たちの間を、きちんと躾けられたまめとみつが時おりお行儀よく行き来したりして、一同ほっこり。村上さんが紡ぐのびやかな言葉にも通じる、なんとも居心地のいい空間です。

ここにオフィスを構えたいきさつを伺いました。

このビルは、料理屋の女将だったご主人のおばあちゃんの店舗と住まいだった場所。その後、貸しビルとして数軒のスナックが入居していましたが、しだいに空きが目立つように。そんな頃、江戸堀でデザイン事務所をしていた村上さんが、仲間たちと空いている店舗跡に移ってきたのだそうです。それが12年前のこと。「みんなが堀江あたりに移っていった頃、私たちはこんなところにやってきた(笑)。 スナックでデザイン事務所なんてお洒落なんちゃう?って」。

当初の仕事場だったという1階奥のバー跡も拝見。

カウンターにMAC3台を並べ、ハイスツールに座って深夜まで仕事をしていたら、スナックだと思って入ってきたおじさんに「酒、出せへんのか?」と凄まれたこともあったとか。今は物置になっているこのスペースには、一八八の軌跡を物語るあれこれが詰まっていて、村上さんは、あちらの棚から、こちらの箱から、惜しみなくその断片を取り出して見せてくれます。

2008年にPARCO出版から出した旅するまめのポラロイド写真詩集を手に、「犬を飼うなんて考えてもいなかった」とおっしゃる村上さんに一同はびっくり。「犬の写真集を作ってほしい」という依頼がまず先にあり、「だったら、どこかのモデル犬を使うのではなく、子犬を飼って育てながら作りたいと思った」という、そんな型破りな制作プロセスを伺ってさらにびっくり。「思いがけず飼うことになった犬ですが、以来、ダダハマリです(笑)」。

ミナミのど真ん中を犬とお散歩

いよいよ、村上さんの日課である犬のお散歩に出発。

オフィスの前の通りを西に向かって歩き始めます。千日前商店街より東のこのあたりは、今も旧町名の「阪町」(さらに古くは「坂町」)と呼ばれることが多く、店の名前などにもその名残りがちらほら。

村上さん自身もオフィスの上に住んでいるそうですが、よく見れば、こんな繁華街のど真ん中にも、見上げれば洗濯物が干してあったり、軒先に自転車が置いてあったりと、人が暮らしている気配がそこかしこに。ふだんなら見過ごすそんな風景に気づくのも、犬と一緒に立ち止まりながら歩いているせいでしょうか。村上さんも「この子たちと歩きはじめてから、まちへの目線が変わった」とか。

ふだんのお散歩タイムは、仕事前の朝40分ほどと仕事終わりの夕刻から夜にかけての1時間半ほどだそう。千日前商店街と交わる手前で、いま来た道を振り返り、「夜、このあたりから東方向を眺めたときのケバケバしい夜景が、私にとってのベスト・オブ・オオサカ!」と村上さん。

千日前商店街から法善寺横丁に入り、今日のまち歩きの成功を祈って水掛不動尊にお参り。20代の頃、よく自転車旅行に出かけていたという村上さんは、決まってここで集合し、旅の無事をお願いしてから出発したそうです。

犬と歩けば人に出会う

道頓堀の人ごみを抜け、戎橋に到着。

2年ほど前、村上さんは散歩中、偶然にも同じダウンジャケットを着て橋の上を掃除している人を見つけ、思わず声をかけたそうです。聞けば毎週火曜日に商店街の有志がボランティアで清掃をしているとか。「ならば」とご自身も翌週から参加。2週間目には噂を聞いた戎橋筋商店街の事務局の人から、まち発行のフリーペーパーの仕事を依頼されるという展開に。それが縁でミナミの顔役の人たちとも次々とつながりができ、新しい仕事が広がっているそうです。「ゴミ拾いをしていたら、仕事につながった(笑)。とても恩のある場所なんです」。

戎橋のたもとから、川辺の遊歩道・とんぼりリバーウォークへ。

西端の湊町リバープレイスまで歩き、大階段で若者たちのパフォーマンスを眺めるのもお気に入りコースだそうですが、この日は河畔のステージで開催中の高校の吹奏学部や和太鼓部の演奏会をのぞきがてら東へと歩を進めます。

5歳になったばかりの栗毛のまめと、まめの半年後にご主人が一目惚れして買ってきた黒毛のみつ。ミナミのまちを彼らと一緒に歩いていると、驚くほどたくさんの人が親しげに声をかけてきます。「かわいい!」。「柴?」。おかしかったのは「噛む?」と聞きながら恐る恐る寄ってきたかなり強面のおじさん・・・。

太左衛門橋近くのベンチでは立ち止まり、犬を介して仲良くなった道頓堀界隈の謎の住人たちとの交流についても、おもしろおかしく語ってくださいました。橋の下に住まう心優しいおじさんは、缶コーヒーや犬のおやつを買って待っていてくれることもあるそう。「犬がいなければたぶん話すことさえなかった人たちとのたわいのない会話を通して、人間の幅を鍛えられている気がする」と村上さんは言います。

まめを見初めた黒門市場へ

相合橋でリバーウォークから地上に上がり、相合橋筋を南下して黒門市場へ。

堺筋に面した市場の入口にあるペットショップは、村上さんがまめを見初めた場所。「この子に決めたのはさびしげな表情に惹かれたから。飼ってみたら、ところがどっこい(笑)」。店の大看板には、まめの写真集の表紙がそのまま使われています。

師走の週末とあって黒門市場はたいへんな人通り。ときにはまめとみつを抱っこしながら、村上さん御用達のお惣菜屋さんを教えてもらったり、揚げたての天ぷらを買い食いしたり、活気あふれる市場の散策を楽しみました。

なんさん通りの裏通りにある小さな公園では、吉本の若手芸人さんがネタの練習をしている姿をよく見かけるそう。「最近は新しい人種が“オタ芸”の練習をしていることも多い」とか。村上さんはここで、日本中を歩いて旅している若者に出会ったこともあるそうです。

ミナミの路地で故郷を語る

観光客でごった返すNGK前から、賑わう千日前筋を北上し、一行はふたたび阪町へ。

まち歩きの終点は「世情け横丁」の奥にある昼はカフェ、夜は立ち飲みの「きんぎょ草」。限りなくハシゴに近い急な階段を上がり、小座敷風のロフトスペースで、おろし生姜がたっぷり入ったスパイシーなカレーを汗をかきかき味わいました。 ご近所でもあり、以前からこのお店が気になっていたという村上さん。先日、事務所のメンバーが偵察ランチに訪れ、「美味しかったし、お姉さんもやさしかった」という報告を受けての初訪問だそうです。

食後、お話は自然と村上さんの故郷・因島のことに。

村上さんは故郷・重井町への思いを綴った『しげい帖』がきっかけで、つい先日、中国新聞の取材を受けるために帰省してきたばかり。母校の小学校を訪問したり、まちに関わる人のインタビューに同行し、「あらためてまちを再取材したような感じ」だそう。小学校のトランペット鼓隊のことやスイカ農家のお父さんのことを語る言葉のあったかいこと・・・。「嬉しかったのは、<『しげい帖』を見て、これまで好きになれなかった重井に誇りが持てるようになった>と言ってくれる人がいたこと。都会でも田舎でも<僕のまちにはなんにもない>とよく言うけれど、実はみんな自分にとっての好きな場所ってあるんですよね。それを掘り起こして紹介するのがマチオモイ帖プロジェクトです」。

村上さんの『しげい帖』から始まった「マチオモイ帖」は、昨年(2012年)、全国から340組ものクリエイターが参加し、それぞれ思い入れあるまちを冊子や映像で紹介するビッグプロジェクトへと発展。大阪や東京での展覧会は大きな反響を呼びました。今春には全国各地で同時開催展覧会が予定されるまでに広がりをみせています。

このまちに暮らす村上さんの、まちと人への思いや物語に触れながら、ミナミの裏通りから表通りまでを歩き過ごした3時間。柴犬たちの驚くべき“愛され力”にも助けられた、新鮮なまち歩きでした。知らなかったミナミを発見するとともに、ひるがえって「わがまち」のことにもあらためて思いをいたす・・・そんなひとときになりました。

 

開催概要

これより下の情報は、終了した事業に関するものです。

今回のゲストはコピーライターの村上美香さん。「サントリー1万人の第九」や「神戸コレクション」といった誰もがよく知るイベントのコンセプト立案やクリエイティブディレクションを継続して手がける傍ら、近年はコピーライターの枠にとどまらない活動が注目の存在です。

クリエイターがふるさとや大切な町を自分だけの目線で切り取り小さな冊子にして残すプロジェクト『my home townわたしのマチオモイ帖』もそのひとつ。村上さんが瀬戸内にあるふるさとの島への思いを綴った小さな冊子が、全国のクリエイターに拡がり、今年は東京ミッドタウンで340冊のマチオモイ帖展覧会も開催されました。

大阪ミナミの繁華街にある6坪のスナックを改装してはじめたという村上さんの会社一八八のユニークなオフィス(内装を手がけたのは維新派の屋台チーム)からツアーはスタート。盛り場の喧騒を日常に暮らす村上さんと、愛犬まめとみつと一緒に、まさに毎日の散歩をするようにして年の瀬近いミナミを巡ります。

内容 大阪ミナミの阪町~道頓堀~黒門界隈を散策
日時 2012年12月15日(土)
11:00集合(地下鉄日本橋駅(2)出口地上 HARIMAYA前)
14:00頃解散予定(湊町リバープレイス周辺にて解散)
定員 5名
料金 5,000円+カフェ・ランチ飲食費実費(2,000円程度)
注意事項 1.参加費は事前に銀行振込、飲食費は各店舗で実費精算となります。
2.雨天決行
3.申し込みは定員になり次第締切らせていただきます。
4.内容は変更する場合がございます。
5.小型犬2匹を連れてのツアーとなります。犬が苦手な方は参加をご遠慮下さい。

振込口座等の詳細は、お申し込みいただいた際にお知らせいたします。
その他、ご不明な点はセンターまでお問い合わせください。
申込方法 申込・問い合わせは当センターまで。
メール art@enokojima-art.jp 電話 06-6441-8050
※いただいた個人情報はお申込以外の目的には使用しません。

 

▼ 村上美香(コピーライター/文筆家)
1967年広島生まれ
広島県尾道市因島重井町に生まれる。瀬戸の海を産湯に、波を子守唄に育つ。大阪ミナミの昭和的スナックを改造したデザインカンパニー(株)一八八を経営。繁華街に暮らしながら、海や、ふるさとや、女をテーマに日々ことばを紡ぐ。

■主な仕事
「サントリー1万人の第九」「神戸コレクション」「東京ランウェイ」「音舞台」「兵庫県立芸術文化センター管弦楽団」など関西の芸術文化を推進するためのイベントのコンセプトづくりやビジュアルディレクション。『スルっとKANSAI』CMソングの作詞、大阪市クリエイティブマガジン『SUPER:』にてコラム「道頓堀散歩ぶるうす」連載、地元・大阪ミナミの「戎橋筋商店街」ロゴ制作&フリーマガジン『EBISCLAP』編集デザイン、和菓子ブランド「黒船」「然花抄院」ブランディング。

■著書
『旅する柴犬まめのポラロイド写真詩集~ぼくらは簡単なことばで出来ている』(PARCO出版)、『旅する柴犬まめのポラロイド絵本~永遠売り』(PARCO出版)、『しげい帖』(自主制作)、『マチオモイ帖 はじまりとそれからのものがたり』(629制作)。

まめとみつ

 

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